「翠は? どこ」

「翠ちゃんはまだ……」

 まだ意識が戻っていないと母親は言った。

 どこにいるのかと聞くと、すぐ近くのベッドにいることが分かった。

 そんな話をしている間、医者は俺の腕や足や背中を診たり、目を覗き込んでいたりと、物のようにいろいろと部位を動かしながら状態を確認していた。

「翠のところに……連れてってほしいんだけど、いい?」

「すぐ隣にいるわよ」

「ここ?」隣のベッドを指差し、翠がそこにいることを母親は伝えた。


 医者にカーテンを開けてもらい、痛む首をなんとか少しだけ動かし翠の方に視線を向けた。

 その姿を見たとたん、全身にしびれが走り声が出なくなった。


 包帯で全身を巻かれている翠は、本当にそれが彼女なのか分からない程に痛々しかった。
 
 口からは呼吸器が無残に突っ込まれ、顔も包帯で巻かれていて口元だけがかろうじて見てとれたが、腫れ上がっていて記憶に残っている翠とはかけ離れていた。

「翠」

 俺があの時あんなことしないで側にいればこんなことにはならなかったんだ。

 わざわざ俺のところに来てくれたのに冷たくあしらってしまった自分に腹が立つ。

 翠を見ていると鼻の奥が熱くなってきた。涙があふれ出した。