天使みたいな死神に、恋をした






「あ、では、そういうことになったので、その辺に勝手にどうぞ」

 ぶっすーとして突っ立っている私に気をつかってか、不気味なほどに紫色の爪でテーブルをとんとんと叩いた。
 
 私は一瞬の後に、アンジュラの家と思しき場所にきてしまっている。
 
 ルーインはルーインサイドで、アンジュラはアンジュラサイドで何がどうなっているのかを探る間、アンジュラの家でごやっかいになることになった。

 ルーインサイドのあのぬくぬくしいきれいな場所で過ごしたいと言ってはみたものの、あえなく却下で今に至ると。

 そしてもちろん何故だか知らないがここにはルーインもいる。

「ここにいるならルーインとこに居ても同じじゃない? 私あっちがいい」

「アホか。俺んとこには穢れた奴は入れないんだよ」

「だってよ、アンジュラ。じゃ、私だけでも」

「おまえのことだよタコすけが」

「なぜ私!」

「宙ぶらりんだろ。生きてもねえし死んでもねえ。もはや厄介の帝王だな」

 がさつに笑う天使の脳天にくっついているその輪っか、やっぱり思い切り割り潰してぐっちゃぐちゃに足で踏んずけてやりたい。

「やはり無駄足でしたね、いや、それでも進歩はありましたね少しは」と私たちの会話を無視して割り込んだ死神は、おもむろにローブに手をかけた。

「やはり根本を潰さないとダメか。ま、データとしてはよい勉強をしたな」と天使も乗っかったので、私の怒りの矛先は自分の中に向けられた。

 じぶんで消化しろということだ。

 と、結論付けた。

 モルモット。私はあなたたちのモルモットになっているわけでしょうか。データ云々の件からしてそう思う。

 ああでもないこうでもないと話し合う天使と死神を横目に、自分の心を落ち着けるために家の中を歩き回ってみた。


 死神の家って不気味で聞こえが悪いけど、もう、ほんとそのまんまです。気持ちが悪いし怖いし、暗い。そして陰気くさくてぞわっとする。

 ここにいるだけでマイナス思考になりそうな感じ。この家には気分を明るくするものは一切置いてない。

 あるのは鎌(かま)と釜(かま)と竈(かまど)くらい。

 一刻も早くこの場から去りたい衝動にかられる。