「はいはい、バスの事故に遭った人たちこっち集合ー!」

 手を振ってる男の人が1名。
 
 添乗員さんみたいなかんじでその辺にいる人たちを手招いている。
 
 お、あれって俺たちのことじゃないか? と後ろから声が聞こえて振り向くと、そこにいたのは絵画サークルで一緒の山田だった。

 背の低さにリスみたいな仕草がかわいくて愛くるしく、本人はその気が無くてもみんなからは弟キャラで通っていた。

「山田っち!」

 デニムにピンク色のポロシャツ、ビーサン姿の小さな男子がこちらを振り向き、首を傾げた。

「山田っち? って誰ですか? 俺? ええと君と俺、どこかで会いました?」

「何の冗談それ、笑えないよほんと。一緒のバスに乗ってたじゃん。これから合宿行くのに、朝おはようって挨拶したじゃん!」

「あー、そうだとしたらごめん。あまりよく分からないや」
 
 高校から一緒だったのに、なんで忘れてんの。悪い冗談に付き合っている場合じゃない。この状況が飲み込めていない私は説明を求めたかった。

 けど、山田っちはすんなり理解しているようで、なんの問題もありません的な顔をしている。


「お、小林じゃないか! お前もやっぱりあれか? あの事故で」

「そうみたいなんだよなぁ、さっきルーインに聞いてびっくりだよ」

「俺も。さっき話聞いてやっと状況が飲み込めてきたけどこれは参ったな」

「まさかこうなるなんて夢にも思わなかったしなぁ」

「びっくりだよな」

「確かに。でもなんかあれだな、さいごの記憶ってもんは無いんだなって思って。どうやって死んだのかぜんっぜん覚えてない。どうだ?」

「いや、俺もそうだよ」

「だよな。それはよかったと思うしかないよなあ。それにここ、以前から知ってるような感じもするし」

「だよなあ。懐かしさを感じるんだよな」

 こくこくと二人して顔を上下にさせている場合じゃない。


「ねえ、何言ってんのか分かってるの? 私たちこのままじゃほんとに戻れないっぽいんだよ。それにさっきから聞くことばだけど、ルーインて何? 何の話してるの?」


 小林ことコバちゃんも高校からずっと一緒だ。でもなんだかよく分からない話をしてて、二人を見ていて思ったことは、私だけが何も分かっていないってことだ。