「なんか俺」
「なーに」
「お前さぁ、何があってもずっと俺に優しかったじゃん」
「んー、そうだねぇ」
亮も優しくなってくれて、それはそれで良かったのかもしれない。
「俺、天使みたいな死神にさぁ、恋したのかもなぁ」
「何言ってんの? 私が天使みたいにかわいいってのは分かるけど」
「そこんとこ自分で言っちゃうなよ。でも死神みたいに怖いのもくっついてるじゃん」
「首にね」
「そうそう」
「今度また私を悲しませたら、私のこの後ろの鎌が亮の首、かっさばくかもしれないよー」
どうだこの野郎! と、鎌を振り回すマネをして怖がらせてみる。
楽しい。
「お前なんか性格悪くなってる」
『あまり性格はいいほうじゃないんですよ』
なんだ今の。優しい風が懐かしい香りをのせて鼻をかすめた。
なんだか懐かしい声が聞こえた気がする。そして私の首の後ろにあるこの死神の鎌には見覚えがあるような気もするんだけど……
ま、そのうち思い出すよね。きっと。
「ねえ翠、その怖い表現やめてよー。それに何、お前さ、もしかしておおお俺が言ったこと聞こえてたの?」
「ん? 聞こえてた? って何を言ってたの?」
「いや、いいいい。なんでもない」ぶんぶんと両手を振る。
なんだそれ。いい、いい。と顔もぶんぶん振っている。
「あーなんかお腹すいたなぁ」
「よし、帰ってごはんにしよう。何食べたい? 俺作るよ」
「ほんと! 作ってくれるの! 嬉しい! ありがと。何にしよう。家に着くまでに考えるね」
タクシーに乗る前に見上げた空は水色一色で雲一つない。
私の左手はしっかりと亮の右手と繋がっている。
この手をずーっと放さないようにぎゅっと力を込めた。
もちろん、倍の力で握り返してくれる。
ちょっと痛い。
人のあったかい温もり、隣にいてくれる亮、今こうしてここにいられること、大地を踏めることを大切に感じて、全てのものに感謝して毎日を過ごしていこう。
後ろでたばねていた髪をおろしてもらって軽く首を振り、笑顔になって空を見上げた。
【おわり】