「消えちゃった」

 左右を確認してみるものの、アンジュラはどこにも見当たらない。


 今の今までは暗い地下室に居たような感じだったのに、
 春先の若い草木が芽吹く気持ちのいい朝方の空気のようにがらりと雰囲気が変わった。
 

 死神がいるだけであんなに空気が重くなるなんて。

 やっぱもう戻ってこなくていい。できれば一生戻ってこないでほしい。


 そうだ、さっきの人どこ行った。

 私の空気も変わった。体が軽くなったというか、頭が徐々にすっきりしてきた気がする。

 待つ?

 そんなわけないじゃん! 死神を待ってても良いことない。絶対にいいことはない。


 見覚えのあったあの男の人を探すべく、待てと言われていたけれど待つわけもなく、その辺を探し回ることにした。

 しかし名前が出て来ない。あんだけ一緒にサークル活動してたのに、いくら考えても名前が出て来ない。

 よく見渡せばこの真っ白い空間にはいろいろな人がいる。

 老若男女、赤ちゃんから動物、座っている人もいれば行先を分かってるようにすたすたと歩いていく人もいた。

 その上をいわば天使のような子供が飛び回り、笑みを降り注いでいる。

 ここは全く嫌な気持ちがしない。
 


 そしてここにこんなにたくさんの人がいるなんて、知らなかった。
 


 みんな穏やかだけど、誰とも話をしない。

 自分の側に寄ってくる天使とは話をしているけれど、それ以外は隣に誰かが座ってもわれ関せずだった。