天使みたいな死神に、恋をした


『最後に死にたくないといってくれてよかった。これで間違いなく帰れます』

「……待って」


 ルーインじゃない方の声だ。

 またこんな理不尽に。全部思い出せないけど、さっきからチラチラと断片的なものが見えかくれしてる。

 時間さえあったら思い出せるから!

 言いたいことちゃんとしっかり言ってないし、言えてないと思う。だから。


 遠くの方で私を見ているのはフードを深く被った死神だ。その手には鎌が握られている。あの時、私が私の首に当てていたあの鎌だ。

 
 良く分からないけれど捕まえないと。捕まえなきゃって思った。

 そう感じた瞬間、揺れる世界の中、渦巻く空間の中、倒れながら、前から流れてくるモノにぶつかりながら、転がりながら、死神に向かって走った。



 死神はただただ笑顔で私を見ていて、首を横に振っていた。




『残念ですが、時間はもうないんです』




 なにそれ。それに、




 走っても走っても近づかない。全然距離が近くならない。




 不意に心臓あたりがドクンドクンと今までにないほどの音を立てた。



「……っ。痛い」



 立ち止まり、手で胸の真ん中あたりを抑える。走ることができない。

 前にいるはずの死神を探すと、遠くの方で口元に嫌な笑みを作って眺めていた。


 心臓が痛い。

 声も出ない。

 肩が上下する。

 唾を飲んだ。胸に当てている手に今までは感じなかった心臓の鼓動が伝わる。


 嘘。なんで?

 足、お腹、頭に温かさが戻ってきた。


 戻って来たのと同じくして、頭は更に痛くなるし、お腹も痛い、足、痛い。息できない。


『見てみ』


 胸を抑えてうずくまる私の横にはルーインがいて、背中を優しくなでてくれている錯覚に陥る。


 見てみろと言われた先に視線を移すと、