天使みたいな死神に、恋をした


『あー、っとに面倒くさい奴がやっと帰るか。手間かけさせやがってあの野郎』

 ルーインの声だ。この怠そうな話し方、間違いない。

『これでいつもの平和が戻って来ると思うと急激に腹が減った気になる。減らないけどな。なんかつまみに行こうぜ。っとに疲れたわ』

『はぁ、そうですねえ。それではそうしましょうか。何か軽く取りましょう』

 誰だろう。もう一人いる。

 私の声じゃない。頭痛い。世界が回っていて気を抜いたらどこかへ持っていかれそう。


『お前も最後の最後でやってくれるよなほんと』

『はあ。それはなんの話でしょうか?』

『お前やっぱ死神だな。記憶無くさせて帰そうなんてよ。俺だったらできないわ。死神だわほんと』

『なんのことだかさっぱり』

『お前の本当の仕事見せてもなんとも思わなかったんだろ?』

『不思議な方でしたねえ。こちらがびっくりしましたよ』

『てかなんであの男が翠にキスするの分かった?』


 気持ちを落ち着かせるように小さく息をつき、


『最後に彼を見た時に感じました。彼がきっと翠さんを連れ戻すだろうなと。
悲しいのはほんの一瞬です。あちらに帰れば私のことなど忘れますし、こちらのことだって忘れます』