『さようなら翠さん』
私の口から違う声が聞こえた。
最初に出会ったこと。
死んでくださいと言われたこと。
一緒に笑ったこと。
壁に埋もれてたこと。
変な薬を飲まされたこと。
バカにされたこと。
助けてくれたこと。
甘い言葉を言われたこと。
好きになりかけてたこと。
そして、好きになってたこと。
『離れたくない』
そう思った瞬間に、体に温かさが戻った。ドクンと大きくからだが跳ねた。
目の前には銀色に冷たく光る鎌を持った私がいる。
私の顔半分は陰になっていて見えないけれど、口元だけは相変わらず笑っている。
私は私の首もとに切れ味抜群だろうと思わせる鎌を当て、見えている顔半分、口元を薄く三日月のように弧をかいた。
殺される!!! 自分に殺される!!!
「…………やめて」
笑いながら更に口を耳まで裂いた。
そして、私は私に、
『誠に申し訳ないんですが、このまま死んでは頂けませんか?』
自分に殺される。
そんなのは嫌だ。まだまだ死ねない。やり残したことだってたくさんある。まだこっちに来るわけにはいかない。
夢だってまだ叶えてない。
私の人生、まだまだこれからだ。
謙虚さの欠片も無い私は、即答でこう返す。
「……はい、無理、却下」首を振った。強気で出ないと怖さでおかしくなりそうだった。
絶対無理。死ぬわけにはいかない。
まだ、死ねない。だから……

