天使みたいな死神に、恋をした


『翠さん、ぜひそっちの世界に帰ったら少しくらい痩せてくださいね』



 私が私にそんなことを言った。

 口元をふっと上げていたずらに笑む顔、私、こんな顔今までに一度だってしたことない。

 自分の顔なのに自分じゃないみたいな気がして、警戒した。


 でも、なんかそれ前にも聞いたことある。

 なんだろう、なんだかとても懐かしい。

 もう一人の私は両目を細め、口を三日月形ににっと引き伸ばした。

 私の口、そんなに裂けたりしない。

 私は顔を小刻みに左右に振っていたようで、目の前の私も同じ動きをする。

 やっぱりこれ、私じゃない。

 これ、鏡じゃない。


 にたりと笑った口元からは真っ白い牙が伸びていた。
 たった今生き血を飲んできましたといわんばかりに真っ赤な舌がちらりと見えた。

 
 自分の顔ながら怖くてぞっとした。凍りつきそう。


 待って。


 眉間にしわが寄る。



 思い出せ。

 なんでもいいから思い出せ。

 何があった?

 なに? なにがあったの?

 思い出したい。