とりあえず、
 これで完全に何の迷いもなく完璧にいつでも身体に戻れるって思うと、なんだかとっても気が楽になった。だって、邪魔をするものはもういない。
 
 そして戻るまでにはまだいくらか時間が残っていることだって分かってる。
 綠さんの件はしっくり来ないけど、この二人に言いくるめられてしまって今に至る。
 それにもっともっと聞きたいことだってたくさんあったし、もっともっと話したかった。

 それでも彼女の立場になったら私も同じことをしたかもしれない。
その可能性を考えたら限りなく0に近いけど0じゃない。目の前に欲しいものが転がっていて、その落とし主が分からなかったら私も同じことしちゃったかもしれない。良心があるのでそれはないと思うけど、人間切羽詰ったら何をしでかすか分からない。


 終わったことをいつまで話してても仕方ない。

 ってことは、今度こそ。今度こそ私のこの野望が惜しみなく発揮されるんじゃなかろうか……


「いや、ダメです。何考えているんですか。余計なことは一切省いてさっさと戻りましょう。それが世のため人のため、私のためでもあります」

「なんでアンジュラのためなのよ」
 
 そんなことはさておき、私の野望の『観光がしたい』発言はいとも簡単にあえなく却下をされてしまう。


「……そうだよね。危ない橋渡ったもんね、観光なんてするような場所じゃあないもんね。そうだよね。分かった」

「いやに聞き分けがいいですね」

「そう思う?」

「はい。怖いくらいに」

「残念でした。こうなったのももとはといえばあんたたちが悪い。だから、観光に連れて行ってくれたら帰るよ。それまでは帰らないって言うつもりだった。だってもう誰に邪魔されることなく帰れるんでしょ?」
 
「あ、本当にバカなんですか? それともここに慣れてしまって今どういう立ち位置にいるのか分からないとか? いや、私は別にかまわないんですよ、ここに居てくれてもね。ずっと永遠に居てくれてかまいません。でも、それじゃ翠さんが困るでしょう」
 
 まるで子供でもあやすかのように言い聞かせるこの死神はなんだか保護者的感覚で。

「もう二度とここにはこれないかもしれないじゃん。てか来ないし来ないと思うしたぶん」

「そんなことは分かりませんよ。人生にはいろいろなことがありますから。一寸先は私の世界です」

「怖いからそれ。だから、ね、お願い。最後に一回だけ見てみたい」

「そもそも観光ってなんですか? そんなことする場所がここのどこにあると思ってるんですか?」

「なんでもいいの! ただその辺ふらふらするだけでもいい。見ることができなくなると思うと見たくなる」

 
 そんなところはありませんよ。見てもつまらないものばかりですとなんだかまたも私を丸め込もうとしているアンジュラを、今度は拝み倒す。