『そんなこと、あなたにはできないでしょう? ありがとう信二君、大好きだよ』
綠は透ける体をふわりと浮かせ、信二の方へ身体を寄せて、涙を拭い、信二の唇に軽く自分の唇を合わせた。
その途端、辺り一面白く輝き、綠はその光の中に吸い込まれていった。
『みどり!』
『ごめんね。こうやって会ったことは目覚めたら忘れちゃってるんだけど、私は忘れないから。出会ったことも、私に言ってくれたことも。それにね、彼女はもう私になれなくてもここに、この世界に残ることに……』
最後まで聞くことができない。身代わりになる女の子のことを言っているが信二の耳には轟音としか響かない。
『ちょっと待って、それって、そんなの聞いてきたねーよ! みど……』
最後まで言い切る前に信二は意識を失い、霞む視界の隅で消え行く緑の姿を最後までしっかりとその目に焼き付けていた。
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「おい、随分な約束をしたもんだな」
ルーインが戻って来た綠に言葉をぶつけた。
「すみません、勝手なことを言ってしまいました」
ぺこりと頭を下げた綠は、もう大丈夫ですと、すっきりした顔を見せた。
どんな病気なのか、なんでそこまで追い込まれたのかってことは全部伏せた。言えば信二が考えて悩み、辛い思いをさせてしまうからだ。ただ会いたかったから最後に会いに来たと言った綠にもう未練は無い。
このあとアンジュラに引き渡した後に待ち受けていることについては簡単に話したが、それもなんとかこなすだろう。

