『これから先いろいろなことがあると思うんだ、その時はわたしのことは忘れてちゃんと幸せになってほしい』
『そんなこと今ここで言うことか? てかお前が言うなよ。なんだよそれ。俺はまだおまえと一緒にいたいんんだよ。体が手に入るなら……』
『ごめん、そうだよね。そうなんだけどゆっくり話している時間がないんだ。少しだけわがままを言えば、今あんなこと言っておいてなんなんだけど、私を記憶の片隅に置いておいてほしい。でもいつかは忘れちゃっていい。忘れるまではそっと置いておいて』
信二は綠の手を両手で覆っているのでこぼれ落ちる涙は拭くことができない。
手を離したら二度とその手は捉まえられないと思ったから。
『約束して』
『勝手な約束だな。でも、その約束さえちゃんと守れば、お前ともう一度会えるってことだな?』
『そう』
『それ聞いてもすごい悲しいぞ俺今。だからこそその体を乗っ取れる……』
『ごめん。本当に』
『……お前のせいで亡くなったって人もいるって……』
『私だけこっちに行けるって思ってた。ほかの人のことなんて考えもしなかった。本当に申し訳ないと思う。だから私はそれなりのところに行くことになる』
『そこってなんかもしかして……』
『分からない』
首を振る綠が透けてきていることに気がついた信二は、手が離れないようにぎゅっと握り、
『さっき言ってたこと、できないのか』
『……』
『こっちに戻って来られる方法があるって言っただろ? それ、できないのか?』
『それは』
『中身がおまえなら俺は気にしない』
『……それ、本当に』
『一緒にいられるならおまえと地獄にでも落ちるよ』
『……体は私じゃない、外見も私じゃない。でも中身は私。それでも今までと変わりなく私を見れるの?』
『見れる』
『見て』外にいる翠に視線をやり、
『彼女はまだ生きているの。私があの子の体を乗っ取ったら私はここに戻って来られる』
『あの子、生きてるの? 乗っ取るってあの子を?』
『そう。私があの中に入る。そうすると私は病院でつながれているあの子の体に入り、そのままあの子の体の中で生きることになる。それでも好きでいてくれる?』
『……あの子はどうなる? あの子の家族や友達はどうなるんだ』
『あの子の意識はなくなるから私はあの子の家族も友達も分からない状態になる。もちろん私の母に会っても母は私とは気づかない。双方に分からないまま。知っているのは信二君、あなただけ。あのね、厳密には意識は死ぬ。そこに私が入り込むから。あの子は私の代りに死ぬことになる』
『……そんな』
クスと笑い、

