天使みたいな死神に、恋をした


 玄関の前でルーインと話し込んでいた緑さんが後ろにいる私に目を向け、

「翠さん、今まですみませんでした。私がここにいるから翠さんは身体に戻れないんですもんね。
 ルーインのところでこの先の行き先を聞いて、本来私が行くべき場所のことも聞いちゃったからなんだかちょっと怖くてそれで……私と翠さんが間違われているのをいいことに、このままあの人たちと一緒に行ってしまえって思って。
 本当にごめんなさい。でも、もう大丈夫です。話はルーインとしましたから。お別れができたら私は逝くべきところに行きますから。だから、いろいろとありがとうございました」
 

 頭を下げる綠さんは本当に申し訳なさそうなんだけど、まさかの理由がやはりそういうことだったのかって思うと、なんだかとても複雑な気持ちにもなる。


「その理由ってやっぱ怖いんだけどでも……そして少し許せないのも事実なんだけどね、それでも変なこと言わないでよ(もう会えないみたいじゃない。会えないんだけど)私、ここで待ってるからね」

 待ってなきゃならないことがある。

 なんでこんなことをしてアンジュラサイドに来ようとしたのかだってまだ聞いてないし、綠さんのしたことのおかげで私のサークル仲間が数人死んでしまったことの重大さだってちゃんとわかってもらいたい。

 それをしっかりと分かってもらわないと。こんな中途半端に無責任にどっかに行かれても、困る。

 それこそ仲間が成仏できないと思うし、なんだかちょっと、最後のお別れをセッティングしてしまった自分に腹が立ってきたりしてしまう嫌な自分が出てきてしまって、


「だからルーインが言ったでしょう? 後悔するって」

「アンジュラ……後悔するってこういうことだったの? なんか私間違ったことした気分だよ」

「間違ってないですよ。
翠さんの気持ち以外はいい方へ向かっていると思います。
ただ緑さんをこういう風に彼氏に会わせてしまった代償にあなたは思い出したくないことを一つ思い出さなければならなかったってことです。それが今回こうなったことの元だったってわけです。
彼女があそこで飛び込まなければあなたはここに来ることもなく、死んでしまった仲間も生きられたかもしれないっていう事実をね」

「私……」

「考えなくていいことです。これは仕方のないことなので、忘れて」

「忘れられるの?」

「もちろんです。それが人間の特権でしょう」
 
 綠さんは私に何か言おうとしてルーイン越しにこちらを見たが、口を開く前に閉じてしまった。

 こっちからだとルーインは背を向けている格好になっているので、彼が何を言ったのかまでは分からない。
 
 綠さんは申し訳ない表情をしてもう一度深く頭を下げると、『ありがとうございました』と言って玄関をノックした。


「ノックした?」

「ええ、ノックしましたね」

「ノックってだって、そんなことできたっけ?」

「あなたがしたことは、そういうことですよ。後悔の尾は簡単には取れないってことです」

「ひどい」
 
 玄関が開けられ、中から信二君が信じられないと言った表情と、まさか! といった表情を浮かべ、若干青くなって立ち尽くしていた。
 
 綠さんは一言二言何かを告げると、そのまま中に招き入れられて行った。