天使みたいな死神に、恋をした


 部屋の中はさっぱりしていて、必要最低限のもの以外無いシンプルな部屋。
 ワンルームの部屋にはベッドとローテーブル、テレビ、そのくらいしか置いていない。物も少なく余計なものが一切ないといった感じの部屋だ。

 ベッドに背を預けるように座っている若い男が一人。元気のない顔で空を仰ぎ、足元に深くため息を吐いたりを繰り返していた。さきほど緑さんの実家から出てきた男と同じだ。

「彼は信二君です」

「信二君?」

「はい、私の彼氏だった人です」

「……そうなんだね」

 そう紹介された信二君の顔は寂しそうな顔をしていた。言葉も発せず魂の抜けたように脱力して天井を仰いでいる。

 ベッドサイドには写真立てが一枚。そこには笑顔がはじける綠さんと信二君の二人が映っていた。遊園地で撮ったものだろうか、背景には観覧車のような乗り物が映っている。
 
 写真はそれ一枚しか無い。

「付き合いたてだったから、残るものはあまり無いんです。だから少ない思い出はみんないい思い出ばかりで。一緒にでかけたのもあの写真に写っているところだけで。最初で最後のデートだったんです」


 そう言うと、綠さんは信二君の目の前に正座した。


「……なんであんなことしたんだよバカ」

 と一人呟く信二君の手に透ける自分の手を重ね、『ごめんね』と言った綠さんの目には悲しさが滲んでいた。

「彼のことを考えると、それだけが心残りかもしれません。こんな風に涙を見せられたら、そんな気持ちになんてなりたくないけど、後悔してしまいます」