天使みたいな死神に、恋をした

 
 ちっと舌打ちをしてまだ怒りが収まらない天使は死神に、もっと強く言ってやれよ。俺たちがいたからこそのこれだぞ。もう少しでまた問題になりそうなことになってんだぞ。だろ?

 と詰め寄っている。死神は「まあまあそんなにむきにならずに」となだめすかして落ち着かせようと試みている。
 
 折れそうな心を叱咤し、気を取り直して綠さんの姿を探すと古びたアパートの玄関の前で立ち止まって首だけをこちらに向け、私たちのやりとりをおとなしく眺めていた。

「あ、おわりました? じゃ、今度こそ入りませんか?」

 私と目が合った緑さんはにこりと笑うと、玄関を指でこんこんと叩いた。(厳密には叩いていないけど)そして目はぜんぜん笑っていなかった。冷ややかな目でこちらを眺めていて、

「なんかその、ほんとごめんなさい」

「何がですか? 謝ることなんてあります? 気にしてないですよ」

 ぎこちなく笑った。

「ほんと、申し訳ないです」
 
「眠くなるの分かりますよ、実は私もうとうとしましたもん。久しぶりに電車の揺れを感じることができて新鮮でしたね」

「まさかこんな風になるなんて思わなくて、恥ずかしいかぎりです」

「じゃあ、入りますよ」

「……はい」

 緑さんの実家のマンションとはまた別のアパート。ここは一体誰の家なんだろうかと表札を探したけれど、どこにも名前は書かれていなかった。

 横にいる翠さんに目を落としても彼女はじっと前を見たまま動かない。