天使みたいな死神に、恋をした


 天使の暴言にも今回は何も言い返せない。言い返すことなんて出来るわけがない。

 アンジュラ、庇ってくれてありがとう。君はやはり、君がやはり天使になるべきだったよ絶対。

「降りろハゲタコ」

 抑揚なく暴言を吐く天使は、私の首をひっつかむと無理矢理アンジュラの腕から降ろさせた。どうもすみませんと小さな声で謝って天使の顔色をスとうかがう。

 言い出し者の私が何をしているんだろう。この二人が居てくれなかったらどうなっていたか分からない。もしかしたら緑さんは忽然と姿を消してしまったかもしれない。

 私としたことが久しぶりの電車の心地よい揺れに懐かしさを覚え、気持ちよくなってきて目を閉じたその後からの記憶が無い。考えれば考えるほど鳥肌。

「それもこれもみんな翠さん、あなたが私たちがわに寄ってきたという証拠なんですよ。死する前はよく眠るんです」

 眠っている間にこちら側への疑似体験をしていて、目が覚めるとその経験は忘れているが潜在意識に刷り込まれているため、死する直前には全くもって怖さはなくなっているということだ。

 この感覚が短くなってくるとそろそろ体と意識が切り離される合図だという。

「ですからひとえに翠さんが悪いってわけではないんです。お気になさらずに」

 フードを真っ白い骨ばった指ではさみ下へおろして顔を隠しながら頭をくいと下げ、しかし口元は笑んでいる。

「ハゲが」

 ダメ押しとばかりに天使が暴言をまた吐いた。