天使みたいな死神に、恋をした


 意味が分からず罵られたら徐々に頭に血が上ってくるってもんだ。
 
 がばっと起き上がろうとしたところで、そこがアンジュラの腕の中だと気付いた。死神の顔を見上げる格好となっていたから。

「なぜアンジュラがそこにいるの」

 私の言葉にアンジュラが鋭い牙を見せて肩を揺らして笑う。

「クソハゲが」とは天使のことば。
 
 目の前には怒っているルーインの顔があって、なぜそんなに機嫌が悪いのか考えてみるけれど一向に理由は降りてこない。
 
 その頭の上でくるくる回っているエンジェルリングを奪い取ってパリンと割ってやろうかと思うほど近くに見えるけど、

「ハゲって……なんなのいったい」
 
 なぜハゲと言われたのか腑に落ちず、売られた喧嘩は買いますよ。と。そんなスタンスで強気に出てみる。それにいまのところ禿げてないし。

「いいか、よく聞けハゲタコ野郎。おまえな、重要な任務中に電車に揺られて寝るとかってドアホがどこにいる? そんなやつ見たことない。居たとしたら究極のバカだと思わないか」

「思う」

「だよなあ」
 

 電車に揺られて寝るドアホ。

 電車に揺られて寝るドアホ。

 電車に揺られて…………



「わたし、もしかしてまさかのまさかの?」

「そのまさかだよ」


 にやりと笑うルーインの顔は怒りながらも見下げて笑っているので更に怖い。

「お前一人で来てたらまんまと緑とはぐれただろうなぁ、ん? どこを探せばこんなどうしようもない奴がいるんだろうな、なぁ? ん? おっと、目の前にいるか。あ? このままアンジュラの腕に抱かれてこいつと一緒になったら一番幸せなんじゃないか? ん? それが世の中のため、もっというなら俺らのためだな」

 寝たか? 私、寝たのか? 久しぶりの電車の揺れで気持ちよくなって寝ちゃったのか。

「大バカだわたし」

「だからさっきから俺がそう報告してやってるだろう」

「まぁまぁいいじゃないですか。私たちが運良く一緒に居たおかげで何もなく今こうなっているんですから。結局最後がよければそれでいいと思いますよ私は。久しぶりの電車に気持ちもやわらいだのでは」

 フォローしてくれてほんとにありがとう。心からじーんときてる。すごい失態した私だけど、その言葉は心に染みるよ。