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「ここです」
 
 視線の先には8階建ての茶色いマンションが建っていた。閑静な住宅街に位置し、緑の多く住み心地のよさそうなところだ。

「ここに住んでたの?」

「はい」

「じゃ、行こう」

「でも」

 綠さんは後ろをちらちら見て戸惑っている。
 
 そりゃそうだよね、天使と死神が本当にいないのか、確かめている。

「大丈夫。私と二人だけだよ。あの二人はいないから」

「本当にいないんでしょうか。見えないだけでいるとか」

「いたら何か不都合があるの?」

「いえ……」

「じゃ、さっさと行こう」
 
 がしっと綠さんの腕を掴む。彼女は何か考えている。だからしきりに天使と死神のことを気にしているんだ。


『お前達だけで移動させるのはルール違反だから、やはり仕方なく着いていく』とルーインは私の耳元で言い切った。そこでアンジュラに姿は消しましょうと説得され、しぶしぶ了解したかたちとなった。
 
 何がルールだよ。と思うもこれは腹の中に留めておく。
 
 どこのだれがルール違反(いや、迷惑な間違い)をして今に至るのか……言ってやりたいけど言ったところで『俺たちには関係ない』とでも言うに決まっている。

 綠さんは下を向き、どうしようかと考えているようだが、ここまで来て引き返すことも出来ないと考え直したのか、分かりましたと割り切った。