「…ここでなにしてるんですか?」


沈黙を断ち切るように、女がぽつりと言った。

「え?」

「こんなところでこんな時間に、1人で。」

「ああ、あの、待ち合わせです、単なる。」

「『単なる』。」


女は含みのある言い方で繰り返す。
男は意図を計りかね、戸惑った。


「ええ。」

「誰とですか?」

「え?」

「あの、ただ、誰と待ち合わせしてるのかなぁ、と思って。」

「ああ。えっと…人と。」

「そんなの解ってますよ、どんな人と待ち合わせてるんですか?って聞いてるんです。」

「どんな人?」

「友達とか恋人とか、色々あるじゃないですか。」

「ああ、そうです、彼女とです。」

女の一方的な質問攻めの勢いに、男はとりあえず返答をしてしまう。


「…デートですか。」

「ええ、まあ。」


女性の横顔は固い表情だ。
自分がデートをすることに何か不都合があるのだろうか?
男は必死で思考をめぐらせる。


「…どんな人ですか?」

「え?」

「彼女さん、どういう方ですか?」

「…いや、どういうって…。」


戸惑う男に、女は顔を上げる。
視線が交わった。
あどけない顔をしている。
10代とも20代とも思えた。


「私…。」

「え?」


女は少し泣きそうな顔で男を見つめている。


「…私、みたい…なわけ、ないですよね。」


女は自嘲気味に笑う。


「……えっと…え?」


突拍子もないことを言い出す女だ。
男は戸惑うばかりだった。