図書室には、たくさんの本棚が並んでいる。

ニスの塗られた赤っぽい木材の、重々しくて高い本棚。

それが単調な迷路のように並んだ奥。

辞書や世界地図、ずっと前の新聞や、卒業生が残した創作物が陳列する、ほこりも追いやれたかわいそうな隅っこ。

そんな図書室の一番奥は、とても静かで、ほの薄暗くて、すごくセピアだ。

そんな、モノトーンの世界に、ヨシはとても似合う。

わがままで気品たっぷりで意地悪な彼が、手にしている本を棚へ、適当に置いた。

「加奈」

と、いったいいつからかな、気付いたら低くて凛々しくなっていた声で、私を呼ぶ。

メガネを外しながら、彼のてが、私の左頬に触れた。

す、る、と撫でられて、私は猫のように目をつぶる。

「大好きだよ、加奈」

その吐息が近づくのを、感じる。

彼は、私にキスをした。

優しくてあたたかい、やわらかなキス。