テーブルのすみに置いてあった薄緑色のファイルを手にしたお母さんが、またスタスタとのれんをくぐる。

「あっ」

と、そのファイルがなにかを思いだし、私は体をねじってお母さんの姿を追った。

「お母さんお母さんっ、どこいくのっ?」

「どこって、園田さんとこへ回覧板届けに行くのよ」

園田さん――ヨシん家だ。

「おっ、お母さまっ!!」

「なっ、なによ」

思わず叫んでしまった私に、びくりとしたお母さん。

ああっ逃げないで。

私は椅子から飛び出し、詰め寄った。

「私がいくっ! 私が回覧板を届けさせていただきますわ、お母さまっ!!」

逃げないでどうか、その回覧板さまをわたくしに託してください。