なにかの砕けるような感覚があって、

「じゃあな」

なにかがこぼれていってしまう予感があって、

「あ、よ、ヨシ……」

「鬱陶しい」

「っ――!」

そんな、寒々とした世界に私ひとりを残して、

「ヨシ……」

「……」

「ねえヨシ……」

「…………」

「ヨシってば!」

彼は、行ってしまった。

彼の姿が、角の向こうに消える。

私はそれを、追いかけることすら、できない。

だってもう、立ってないから。

手だけを必死に伸ばすばかりで、床にへたり込んで、這いつくばっているから。

なにかが砕けて、彼の背中へしがみつく力もなくて――

私のなにもかもが――

地に、落ちて、割れた。気がした。

声も手も、もう届かない?

「ヨシ……私、私……ねえヨシ……っ!!」

最後まで振り絞った声は、彼に届いたかどうか、わからなかった。