小宮は、友人が少ない。クラス換えをしてからというものの、彼は孤立した状態になっていた。決して疎まれている訳ではないが、特定の友人がいない状態だ。教室には居場所がない。当初はトイレで食事をしようかと思ったものの、それではあまりにも心寂しい。ということで、見つけた格好の居場所が屋上手前の踊場だった。

しかし、その居場所に、1ヶ月前から異物が現れた。それは突然に出現し、我が物顔で踊場に居座ったのだ。

小宮は視界に映ったその異物を眺め、溜め息を吐く。漸く、踊場に到着したようだ。

「お、ありがと」異物、と小宮の呼ぶ青年が、眩いまでの笑顔をみせた。着崩した学ランも、腕のミサンガも、彼が“小宮みたいな人間”ではないことを暗示している。友人はたくさんいるだろうに、彼は昼間になるとここに来るのだ。

名前も知らない青年は階段に腰掛けたまま、

「ん」と手を小宮に向けた。

小宮はビニル袋から牛乳パックを取り出すと、半袖から伸びる白い腕に手渡す。そうして、用事が済んだので、彼は踊場に沢山置かれている机の一つに座った。この場には椅子に座れと怒鳴る大人もいない。僅かに埃っぽいところを除けばここは楽園だ。