「…」

母親の祐子は黙ったまま、電話の向こう側で小刻みに震えながら、千歳の話を聞いていた。

祐子は、千歳には語らなかった過去を、思いもかけず突然追求されて、何も答えられなかった。

「…ちょっと!聞いてるのあんた!

…もういいっ!」

約二十分にも渡る、千歳の非難の声を受けきった祐子は、骨を抜かれたようにへなへなと、そばにあったソファーに倒れ込んだ。

-…父さん、母さん。千歳に聞かれた範囲までで止めてくれて、本当に、ありがとう。

…でも、『あれ』が見つかった以上、何とかしなければ-

祐子は、ソファーから起きて深呼吸を一つすると、ケータイを手に取った。




「お酒~、もっとお酒ないのぉ~っ?」

「あれ?千歳って、酒飲めたっけ?」

「飲めないんだけどさあ、飲まないとやってられない事が、あったんだって。

…でも、このくらいにしときな、千歳!

もうあんたヤバいよそれ以上は…」

千歳は今、ビーナスビートの溜まり場であるバー、『signal』に来て、やけ酒をあおっていた。