…しばらくして、気が落ち着いた千歳は、そっと実の胸から顔を起こし、じっと実の顔を見つめ言った。

「ゴメン…もう大丈夫。

ありがとう。少しは気が落ち着いた。

…でも、やっぱり良いなあ。」

「何が?」

「友達って。」

「そうだな。」

それからまた二人は、しばらくの間、よせてはかえす波の音に、静かに耳を澄ませていた。




「所で、お前には、何か夢って、あるのか?」

「夢?」

「ああ、どんなささやかな夢でもいい。

…何かあるか?」

「そうだなあ。」

千歳は、浜辺に落ちていた小石を拾い上げると、海の向こう側に向かって、思いっきり投げた。

「…早く、家を出たい。

世間様からいじめられるのも、もうあきたよ。」

「そうか。」

「そう言う実君は?」

返答を求められ、実もまた浜辺の小石を拾い上げて、海めがけて投げつけた。

「…一度でいい。おふくろが笑った所が見てみたい。

俺の前で笑った事、一度もないから。」

「…そっか。」




「そろそろ、戻るか千歳。」

「…そうね。でも、お母さんの所には当分、戻りたくない。