コツッ、コツッ…と革靴の音が楓に近付いて来る。
それ以上寄れないくらいにリュウが楓の前まで歩み寄ると、姿勢を低くして顔を近付ける。
「さあ? 自分が一番わかってんじゃねぇの?」
「―――…!」
(まさか―――勘付かれてる⁉)
至近距離のリュウの切れ長の目が、意味深な笑みを浮かべている。
楓にはそう感じた。
「…っ、いい加減、離れろよ!」
動けない楓に代わって、リュウとの距離を引き離したのはケンだ。
数歩の距離を開けたリュウは、再び指に挟んでいた煙草を口に咥える。
そしてゆっくりと吸い込んだ煙をケンに向かって吐き出した。
「残念。お前はシュウ(コイツ)のタイプじゃないんだとよ」
その煙に顔をしかめて一度顔を逸らし、息を整えて再びリュウを睨みつける。
しかしその表情が、ふっと緩んだケンを見てリュウが異変に気がつく。
「おいおい。新人の激励はお手柔らかにな」
リュウの後方からその声が聞こえた。
楓とケンからは既に姿が確認出来ていて、それが誰が言っているのかわかっていた。
一人、その存在に遅れて気づいたリュウは、振り向き一歩下がって漏らす。
「ど、堂本さん…!」
リュウと同じように煙草を口の横に咥えながら、ポケットに手を入れ3人に近付いて来る。
「敵対心持つのは悪くねぇけど、店の雰囲気悪くしない程度に頼むな」
笑いながら堂本が言う。
リュウはどう答えていいのかわからずに煙草の持たない方の手を握るだけだ。
「ま、リュウはただ、からかってんだろ?」
「…え」
「お前が新人に焦るわけねぇだろうし」
「……」
「…頼りにしてるぞ、ウチのTOP3に食い込む人財だ」
ポンと、堂本は嫌味のない笑顔のままリュウの肩に手を乗せた。
するとリュウは、「はい」と満更でもない顔をして返事をすると、ロッカー室へと居なくなった。