「ごめんね。昨日連絡出来なくて」
『いや。大丈夫か? 今どこに居るの?』
「今――――…」


電話の相手に尋ねられた楓は、街並みを見渡した。

実際詳しい地理はわからない。
昨日適当に乗り継いだ電車やバス。そして終着駅で降り立ってからは、無意識に灯りのある方へとふらふら歩いていただけなのだから。


「多分、そんなに遠くはないとこだと思う…」
『え? 本当大丈夫かよ。住所くらい教えてくれよな』
「うん。ごめん」


少し説教染みたことを言われて楓は肩を窄めて小さくなる。


『まぁとりあえず、良かった。あ、やべ…休み時間終わる』
「あ、そうだね。また、連絡するね。圭輔(けいすけ)…大丈夫…?」
『オレは大丈夫だよ。アイツはオレには何もしないんだから』
「…なら良かった。じゃあ…」
『あ、姉ちゃん』


受話器を耳から離そうとした時に、「姉ちゃん」と呼び声が聞こえて、楓は受話器を握りなおした。


『誕生日、おめでと』


忘れていた。
人生の分岐点にでも立っていたような、昨日と言う日。
思い出せば、自分の19になる誕生日だということを。


『落ち着いたら祝おうぜ。じゃ』
「あ、ありがとう」


丁度会話が終わった時に、ブーッと公衆電話から時間切れの音が聞こえた。

重い受話器をガチャンと置いて、楓は暫く俯いていた。