翌日、楓のスーツのポケットには携帯電話と昨日貰った小物入れ。

その入れ物の中身は今は空だが、お守り的なそんな想いで持ち歩くようにした。

本当はピアスや小振りなネックレスなんかを入れるのにいいのかもしれない。
しかし、元々飾り気がなく、ピアスの穴も開けていない楓の持ち物にはアクセサリー類は無かった。

それを知ってる筈の弟が、これをセレクトしたのはやはり『楓』をあしらっているからだろう。


「おす。昨日は楽しんだか?」


開口一番、冷やかしを混じえた挨拶のケンに、楓は至って冷静に返す。


「…まーね」


否定するのも面倒くさい。
適当にこの話題は流してしまおう。

そう思って楓は答えた。


「いいなぁ。羨ましいぜ?」
「…ケンは彼女とか、居ないの」
「彼女? 居ない居ない! ていうか、休日に約束するダチすら―――」


そこなは和やかな雰囲気を中断させる声が割り込んでくる。


「“彼女”…?」


その声に楓とケンは同時に振り向いた。


「そこのひょろっとした方が、か?」
「リュウさん―――…おはようございます」


壁に気怠そうに寄り掛かりながら、つい今しがた点けたであろう煙草をふかして紫煙を吐く。
そのリュウを見て、先に挨拶をしたのは楓の方だった。


「“彼女”じゃなくて、“彼氏”の間違いなんじゃないのか?」


ニヤッとしてリュウは言う。
それに反応したのは―――


「この前といい、なんなんですか! いい加減にしてください!」
「……ケン。いいから」


今にも掴みかかりそうなケンを腕一本で遮りながら楓が制止する。

そして、楓がリュウに尋ねる。


「―――どういう、意味…ですか」