半分過ぎたあたりで楓の携帯が鳴る。
その着信は圭輔から。
「もしもし?」
『駅着いたけど、今度バス待ち』
「えぇ? そうなの…ちゃんと調べとけばよかったね」
『いや。大丈夫。ただ、それで家着くの遅くなりそうだから、先連絡しとこうと思って』
「わかった。あ、圭輔。さっきくれたの見ちゃった」
夜道を歩きながら片手は携帯を耳にあて、もう片方の手で圭輔からの贈り物を乗せてそれを見る。
『あー…なんか、あんなもんでごめん』
「ううん。嬉しいよ、ありがと」
『…それ、さ。気付いた?』
圭輔が、また言いづらそうにもごもごと口ごもる。
電話と言うこともあって、聞き取れない楓は聞き返す。
「え? なに?」
『それ、姉ちゃんの―――』
「私の…?」
その時、楓は今までで一番明るい街路灯の下にちょうど差し掛かり、手にしていた小物入れが鮮明に見えた。
『その……』
その街路灯の下で足を止め、楓は圭輔の言わんとしていることに気付く。
「…もう。だから、こういうのは彼女にしなさいよ」
楓は静かにそう言った。
『…だから、居ないんだって』
圭輔の声を聞きながら涙ぐむ。
その滲む視界に映っていたのは、『楓』をモチーフにしたデザインのシルバーの小物入れ。
「私の名前と同じ…大事にする」
そう礼を言う楓は圭輔との通話に夢中で、周りには何も注意を払っていなかった。
「――――…」
コツッと近くで鳴ったのは女性のヒールの音だった。



