「…こんな話、堂本さん忙しいのに―――」
ふと、楓は微妙な笑顔で顔を上げ、遠慮して話を中断させようとした。
が―――。
「いいから。全部吐け」
正面から目を合わせ、今まで一度も触れなかった手を楓の肩に置いて堂本は言った。
それが引き金となり、堰を切ったように色々なものが溢れ出す。
「ずっと…ずっとッ…苦しかった……怖かっ…た」
胸に秘めてたものを言葉で出そうとするたびに、嗚咽混じりのツライ声でたどたどしくなってしまう。
そんな楓の背中を大きく温かな手で摩る。
まるで冷え切っていた心が溶け出すかのように、その手の温もりを感じるたびに楓の感情は止まらない。
「け、圭輔にも…これ以上迷惑掛けたくなかった…だけど、我慢も、出来なくて…」
「…お前がこうなった原因か」
「……きっと初めから、私を、娘だなんて思ってなかった。だから―――」
「…っ」
不意に楓が顔をあげると、険しい顔をした堂本に気が付いて、慌てて付け足した。
「あのっ…でも、未遂で」
「―――そうか」
楓の言葉に幾分か表情を緩めるが、堂本は変わらず楓に手を添えたまま。
「…弟を置いて、私ひとり逃げちゃって…」
「ソイツは弟にも?」
堂本の質問に、楓は小さく首を横に振った。
「……男には手ェ出さないって奴か」
低く静かに堂本が納得したように呟いた。
そして少しの間、何かを考えている堂本に、今度は楓が声を掛ける。



