「…別に無理して聞き出したりしねぇよ」
そう言われてホッとする反面、どこか悲しくもなる。
そんな複雑な表情を堂本に向けると、堂本は言う。
「でも、お前がそんなカオしてるのは、正直放っておけないけどな…」
苦笑するその顔に、楓は抑えきれなくなって堂本の胸に飛び込んだ。
「……楓、お前…大丈夫か? おれも男だけど」
「少しだけ…」
「え?」
「少しだけ、このままでいてみても、いいですか…」
ぽつりぽつりと言葉にする楓は、ずっと顔を伏せたまま。
自分の胸元をきゅっと両手で握る楓を、堂本は一切触れずにその場に腰をおろした。
「気の済むまで」
頭上で返事が聞こえると、楓は目を閉じその体温と心音を感じる。
嫌悪しているのは“男”じゃない。
あの男―――自分の父。
それを今さらになって確認する。
暫く二人はただ黙ってそのままでいた。
そしてようやく楓が頭を堂本の胸から離しながら口を開く。
「…すみません…」
「いや」
「電話が、きたんです」
「電話?」
「―――父親から」
堂本の広げた足の間に横座りしたまま、下を向いて楓は言う。
堂本は楓のサラリとした短めの黒髪が垂れ下がるのを見ていた。
「……心配されて、か?」
「…いいえ」
否定する楓の言葉はこの上なく冷淡で。
イマイチ状況が飲み込めない堂本は真剣な面持ちで楓を変わらず見つめる。
「ただ、欲のままに生きてるだけの人だから」
そう説明する楓の体は、また小刻みに震えているのに堂本は気が付いた。



