「未だに見慣れねぇよ、自分でも。だってきっと似合ってねぇから…つって、大体誰もオレのこと見てなんかいないだろうけどな。…さて、と」
そしてケンはダスターを持ってテーブルを離れた。
次の作業に入る流れで、話を終えようとしたのだが…。
「いるだろ、ココに」
ケンが楓とすれ違う瞬間、楓は言った。
その言葉にケンは足を止め、楓を見る。
「この店に、僕と―――レンさんと…堂本さんが」
薄暗い店内だからなのか、余計に光って見える楓の瞳にケンは息をするのも忘れる。
ただの気休めじゃない。
同情でもない。
その楓の心がケンには伝わった気がした。
「マジメに生きてても、いいことなんかひとつもない」
「えっ?」
急に楓が逆のことを口にするものだから、ケンが目を丸くした。
そんなケンの反応に、楓は小さく笑った。
「それは僕も思ってた。ココにくるまで」
楓の中で堂本の存在を思い出しながらそう言った。
自分もケンと同じような思いだった。
頑張っても報われない。
全てを放棄してしまいたかった。
そんなとき、手を差し伸べてくれたのは見知らぬ人で。
世の中捨てたものじゃないのかもしれない、と楓自身が身をもって今現在感じ始めていることだ。
「確かにケンはホスト向きじゃない気はするけど」
「……やっぱり?」
「だって僕もそうだから、わかる」
ケンが頭を軽く掻いて苦笑する。
「でも、凄い魅力的だと思うよ」
そんなケンに笑顔で楓は言った。
その楓の言葉と顔が、ケンの目と心に焼き付いた。



