テーブルを磨きながら独り言のように話をする。
「みっつ上の兄貴と、ふたつ下の弟。親は揃っていいとこ働いて。自分で言うの、やだけど“デキる家族”だ」
楓は手を休めたまま、黙ってケンの話を聞いていた。
どこかで自分の家族も思い出しながら。
「こんなダセェ話聞いたら、シュウは笑うだろうな」
「…どうかな」
ケンはワザとふざけたように笑って言った。
そして、“大したことのない”ように話を続けた。
「どっちの親も、兄貴も…今年弟ですら。一度も失敗することなく、順調な人生送ってる。
…なのにオレは。オレだけは…なんでだろうな」
力ない乾いた笑い声が、静かな店内に響く。
その笑い声も止んでしまったフロアは物音ひとつしなくなってしまった。
しかし楓は、まだ何も言葉を発さなかった。
「もう周りも諦めてるし。なんとなく…あそこに居づらくて、家を出た。計画もせず、な。そんなとこも、冴えないよなぁオレって」
ガシガシと、何度も同じ場所を拭きながらケンは笑った。
楓の方を見ることなく、黒く光るテーブルに反射してる自分の顔を擦り続ける。
「かと言って、やっぱこの仕事も向いてる気はしないし…この髪も、ジツはレンさんにここにくる直前にやって貰ったんだ」
ケンは自分の髪を触った。
楓がケンと初めて顔を合わせた時からケンの髪は明るかった。
金髪まではいかないが、それなりに明るい色と短かめのスタイル。
今思えば、だからかもしれない。
初めて見たときの違和感。
見た目と話をするときに感じたギャップを楓はなんとなく思い出した。



