もう最近ではこの片付けも、ケンと楓の二人が当たり前になっている。
真面目な二人は手早く仕事をこなしていく。
普段の会話やこういう仕事に対しての取り組みを間近で見る機会の多い楓がポツリと言う。
「ケンて、マジメだよな」
それは何気なく言った言葉だった。
けれど、その言葉を聞いたケンは、ピタッと手を止めてしまった。
その様子に少ししてから気付いた楓も手を止めて声を掛ける。
「……ケン?」
急に具合でも悪くなったのかと、楓はケンに近付き顔を覗き込む。
「“マジメ”なんて、結果に繋がんなきゃ、無意味だ」
手にしてるダスターをぐっと握り締め、俯いたままケンは言った。
「マジメで、でも実力はなくて…なんの取り柄もない」
「……僕はそうは思わない」
心にこびりついているような、そのケンの感情。
その具体的理由はわからない。
でも、楓はただの慰めではなく、言った。
「結果なんて、すぐに出るものばかりさじゃない。絶対に報われる瞬間(とき)が来る。絶対に―――…」
そう話す楓は、もはやケンを見ていなく、もっとずっと遠くを見つめるようだった。
ケンが顔を上げて楓を見る。
「…オレの周りにゃそういう人間居なかったな」
「たまたまだ。これからそういう人間にたくさん出会うよ」
「オレは…随分狭い世界に居たんだな」
「……僕も同じだ」
楓が遠くからケンへと視線を戻すと、ふっ、と笑った。
その笑った顔にケンは、相手が“男”である筈なのに目を奪われた。
そして、またつい…自分の身の上話を始めてしまう。
「オレは三兄弟の真ん中なんだ」
幾分か表情が柔らかくなったケンは、話を続けながら手を再度、動かし始めた。



