「…あ。目、覚めたみたい!」


まだ靄がかかったような視界に映ったのは何処かの天井。
一度瞬きをして、頭を働かせる。


「ちょっと、大丈夫〜?」


右側から聞こえる女性の声は、記憶にないもので、楓はゆっくりと顔を右に傾けた。


「ダイエットかなんか知らないけど、食事はしなきゃダメよー」


隣に立って自分を見ている女性は、綺麗に髪を結い上げて、少し濃いめの化粧と香水の香りをまとった大人の人だった。

すっ、と額に伸ばされた手が再び引かれた時には凝ったネイルが見えて、ああ、とても女性的な人だな。などと頭の片隅で楓は思った。


「熱…あるわよ。病院は?」
「…大丈夫、です…」
「…ちょっと、ここに薬って」
「さっき買ってきた」


楓の答えを予想していたのか、「大丈夫」と聞いた女性は誰かに話を振る。
すると、その話を最後まで聞く前に返答が聞こえてきた。


「さすが。気が利くわねー」
「…市販の薬でどこまで効くか、な」


もう一人の声はあの意識を失った時に聞いていた声だ、と楓は気付く。
コトリと音が聞こえる方向を見てみると、カウンターチェアに座って薬をそのカウンターに置く、スーツ姿の男が居た。


「水は?」
「冷蔵庫ん中」


楓を置いて、同室に居る二人は会話を交わし、女性が冷蔵庫から水を取って、薬と一緒にベッドへ持ってきた。
それを黙って楓は受け取ると、二人の視線を受けながら薬を流し込む。


「じゃあ…私の役目、終わりよね?」
「ああ。助かった」
「まぁ、いつもお世話になってるからね。でもまた、よろしく」
「へいへい」


薬を飲むために体を起こした楓は、そのまま二人を見ていたが、女性はすぐに出て行ってしまった。