桜と同じ、吸い込まれそうな瞳に、洋人は固まっていた。
楓は手紙の文を思い出して言う。
「【信頼できるあなたに】……そこまで想える人だったはずなのに。なんで、正信(あのひと)といることを選んだんだろう……」
「おれたちを気にして、じゃないか……?」
堂本に言われて楓ははっとした。
自分の気持ちを優先させたら、相手の家庭を壊すことになるということを忘れていた。
「桜とはそこまでの……いや、むしろなんの関係もなかったから気にしなくてもいいはずなのに、」
「それ、本当か? 一度も?」
話が振り出しに戻ったところで堂本がすかさず切り込んだ。
過去の流れ云々も気にはなるところだが、一番気になることは“それ”なのだ。
同時に、楓や圭輔も同じことを知りたくてここに来た。
「私はただ……ここまで来てしまったからには、本当のことを知りたいんです」
楓の一言で洋人は天井を仰ぎ、「ふー」っと力を抜くように息を吐く。
それから一度、堂本を見てから楓に向かって言った。
「――――“一度だけ”。そんなふうに、真面目な彼女は勘違いしていたのかもしれないな……」
洋人は引き出しの奥から写真を取り出し、目を細めてそれを見た。
「現実も相談事も全部忘れて、気分転換をしたいと、一度だけ付き合って欲しいと言われたことがある。
自然に触れたりするのがいいのかと少し車を走らせて登山でもしようかということになった。
そのとき麓で記念撮影をやっていて……『せっかくだから』と桜が買ったものを、私が預かってた」
その写真を、洋人はまた楓に渡す。
無言で受け取る楓に洋人は言った。
「“預かってた”だけだからね」
「……」
「そう。それで、続きだ。
その日は夜遅くまで遊び倒してね……夜はお酒も飲んだわけだ。酒に弱いなんて私は知らなくて、彼女はすぐに酔いつぶれた」
そこまで聞いて、楓はその続きを勝手に予想してしまう。
好意を寄せている相手と、酒を酌み交わし、女性が酔ってしまったという流れでいくと……。
そんな想像をしていると、その思考が洋人は手に取るようにわかったようで声を出して笑った。



