洋人は白髪混じりの短く揃えた髪に触れると、堂本に苦笑いしながら謝る。
「……親のこんな話、聞きたくないだろう。悪い……でも、孝子に言われて、自分勝手な考えで嘘をついて、由樹や孝子を縛るのはどうかと考えさせられてな……。結果、堂本が孝子を幸せにしてくれているのだから、孝子の選択は正しかったんだ」
自分を蔑むように鼻で笑った洋人に、楓が口を開く。
「そんなに長く、お母さんを忘れなかったってことは……ふたりは、ずっと同じ気持ちだったってこと?」
「さぁ……桜の気持ちまではわからないからね。でも、これを見たら、少しそんなふうに自惚れてもいいのかな、と今さら思ったよ」
カサッと音を立てて指したのは、桜が洋人に宛てた三つ折りされた便箋。
すっと楓にそれを差し出すと、楓は驚いた。
自分に託してくれた手紙を、見てもいいのだ、と判断した楓は、手紙に視線を落とす。
「見惚れるほどの美人で……だけど、私にとっては容姿なんていうのはおまけみたいなもので。“応援してやりたい。守ってあげたい”……そういう感情が、自分の仕事上の立場を忘れて溢れていた。
当時30そこそこの私が、人生で初めてそこまで想ってしまったから」
楓は洋人の言葉を頭の片隅で聞いて、桜の一字一句に集中していた。
手紙は目を覆いたくなるようなことは書かれていなく、ただ、純粋な――恋文のようなもの。
【ご無沙汰しております。お元気でしょうか】
そう始まる文章からは、洋人と頻繁に連絡を取る関係ではなかったことを表してた。
「私は元々、彼女を交際相手である成宮正信の暴力から救うために、当時桜の義兄にあたる堂本を通して依頼を受けていた。交際して数ヶ月後から、徐々にそういうことをされ始めた、と」
「あいつ……本当に最低だな」
洋人の話に、圭輔は奥歯を噛んで吐き捨てた。
その様子で洋人は、今も正信は変わらないのだなと感じ取る。
「『もしかしたら変わるかもしれない』。彼女はそう思っていたけど、無駄だったんだな……こんなことを聞きたくはないが、楓さんは――」
「私はもう、あの人とは関わらないことになりそうですし、過去に怯えないで前を向くって決めましたから」
迷いなく発言する楓の姿は、髪型や話し方は違えどやはり洋人には桜と重なって見えてしまう。



