「星見法律事務所……あった!」
圭輔が看板を見上げて声を上げた。
楓も同じように、首が痛くなるほど垂直に仰ぎ見て確認する。
自動ドアをくぐると、エレベーターがちょうど開いて出迎えてくれた。
「8階、っと」
圭輔が最上階である、8階のボタンを押して、扉を閉めた。
ウィーンと、上昇音が四角い箱の中に響き渡る。
やけに早く感じたエレベーターは、どこにも止まることなく、真っ直ぐに8階へと楓たちを連れて行った。
「8階全部が事務所なんだ……すげぇ」
きょろきょろとして先導するのはやはり圭輔。
楓はただ歩く方向だけを見つめながら後に続いた。
すぐに大きな壁についている看板が目に入る。
その横に、入り口であろうドアがあった。
擦りガラスから光がついているのがわかると、いよいよ洋人と対面なのだ、と楓は深呼吸をする。
そして道中握っていた手紙を見て、圭輔の前に出た。
コンコンコン。
手の甲で鳴らして、応答を待つ。
しん、としてる室内には、人の気配は感じる。
けれどすぐに返事がないので、楓は恐る恐るドアノブを回してドアを引いた。
「あの……」
顔だけ先に、覗きこむような姿勢で楓は入室する。
雑然としているイメージの法律事務所だったが、そんなことは全くなく、片付けられていて清潔感があった。
手前のテーブルには花瓶に活けられた花もある。
そこはきっと、客人と話をするスペースなのだろう。
ついそんなことを思っていると、前方から聞こえた声にびっくりした。
「――――楓!」
花からぱっと視線を移すと、そこには堂本がいたのだ。
「どっ堂本さん?!」
驚きのあまり、声が出ない楓に代わって言ったのは圭輔。
「圭輔! お前まで……」
そういう堂本の隣には、“星見洋人”であろう男が立って、こちらを見ていた。



