「あ、姉ちゃん!」


とある駅の改札口で立つ楓の元に圭輔が駆け寄ってきた。


「ごめんね、こんなとこまで出てきてもらって」
「別に大丈夫だけど。でも、オレも行っていいの?」
「ん……正直ひとりで言って、うまく話せるかわかんないし。圭輔いてくれたほうがいい気がして」
「……そう言うなら……。あ、これ。渡しておく」


元々楓が向かっていた場所。
それは洋人の弁護士事務所だ。

楓は母を知り、そして自身が堂本の父である洋人の存在がどうも気になって調べていた。
それと、正信から何度も言われていたように、自分の父親が誰なのか――それについてもなにか手掛かりを握る人物かもしれない。

“星見”という珍しい名に、弁護士ということで調べたら簡単に事務所の場所がわかった。

楓は急遽、圭輔を連れて行くことにした。

圭輔から手渡された、洋人宛の桜が書いた手紙を持って。


「手紙、見ないの?」
「……うん。私宛のものじゃないし……」
「でも、もうきっとかなり前のだし……時効っつーか、娘の姉ちゃんが見ても文句言われないと思うけどなぁ」


圭輔が頭に手を組んで言うことに、楓は黙って笑顔を向けた。

確かに遺品として、子どもである楓が処理したとしても問題はなさそうだ。
けど、楓はその中身を確認するのが怖かった。


「ちょっと時間、遅くなっちゃった……まだ居るといいんだけど……」


駅を振り返り、そこにある大きな時計を見て言った。

時刻は午後8時過ぎ。

もしも足を運んで不在なら、再び訪問するのはもしかしたらしないかもしれない。
そのくらい楓にしたら、勇気を出しての行動だ。


「きっと大丈夫だよ。行こう」


こんなとき、やっぱり圭輔は弟なのに頼りになる。

そんなことを圭輔の背中を見て思いつつ、夜のオフィス街を足早に歩き進めて行った。