目を開けると、カーテンをしていないのに部屋が薄暗い。


「やば……結構寝ちゃった」


楓は目をこすって起き上がると、携帯で時刻を確認した。
18時26分。休みでなければとっくに店に居る時間。

ベッドから立つと、身支度をして鏡の前に立つ。

ユニセックスの服を楓は選んでいた。
まだ、完全に自分の正体を公開していないから。

軽く髪を直して、部屋を出る。

携帯と睨めっこをしたままアパートを出ると、楓は駅に向かった。

少し歩き進めたときに、手にしたままの携帯が振動した。

楓は一度立ち止まって、ディスプレイをタップする。
そして少し上を見ながら電話に出た。


「もしもし? どうしたの?」
『あ、姉ちゃん。電話出れたんだ』
「今日は休み」
『へぇ……でもちゃんと、“期限”を自分の中で決めろよ?』
「……ん、わかってる」


話しながら、楓は再び目的地に向かって歩き出す。
完全に暗くなった空を眺めて、楓は聞く。


「それで? どうしたの? なんかあった?」
『いや。考えたんだけど、オレ4月(来年)から寮に入ろうかと思って』
「え?!」
『幸い特待生だし、距離も遠いし。なんとかなると思うんだ。あの家に居る意味、もうないから』


圭輔の言う『意味』は、“楓を守ること”。
その楓がもう家に居なく、戻ってこないことを考えると、圭輔もそこに居る必要がない。

話を聞いて、楓は少し歩調がゆっくりになった。


「……そっか。うん、もしそれが出来るならいいね。私も仕送りするから」
『いや、それはありがたいんだけど、電話したのはそうじゃなくて』


「ふーん?」と、不思議そうに返事をして楓は圭輔の続きを聞く。


『それで、オレ荷物の整理とかちょっとずつもう始めてるんだけどさ。ちょっと気になるものが出てきて……』
「『気になるもの』?」


再びペースを上げて歩きながら楓は聞き返す。
スピーカー越しに、なにやらガサガサと音がする。

一体なにかと圭輔の話が気になる楓が、催促しようとしたときだった。