嘘つきなキミ



「はぁ……」


掃除を終えて、ようやく帰ろうとに階段を昇るケンは、レンの言っていたことを反芻して溜め息を漏らす。


「……辛気臭いわね」


急に横から声がして、思わずケンは、「うわ!」っと声を上げた。

飛びのいた場所に腕を組んで立っていたのは、絵理奈。


「ちょ、おま……驚かせんな」
「そっちが勝手に驚いたんでしょ」


相変わらず上からの物言いに、ケンは負けて閉口する。
絵理奈はコツッと汚れたままの靴を鳴らしてケンに近寄った。


「……ケガ、大丈夫なの?」


見上げる瞳は健気なもので。
ケンはその意外な絵理奈に言葉が出なかった。
すると絵理奈は、そっと手をケンの口元へ持っていく。


「まさか、こんなことまでするなんて」


心配そうに見つめる絵理奈は、まるで別人。
疲れて出た、街のネオンに酔ってるのか……。そう思ってしまうほど、あの絵理奈が初めて可愛く見えた。


「絵理奈のせいでもあると思って……それで……」


恐らく『ごめんなさい』と言いたいのだろうと、ケンですら理解した。
だけど、絵理奈の性格を考えれば、なかなかその言葉は出てこないだろう。


「その……わ、悪かった……わね」
「――ぶっ!」


必死で謝る絵理奈が、なんだか手のかかる子供のように見えて、可笑しくてケンは吹き出した。


「なっなによ!」
「いや、お前でもそんな顔すんだなぁと思ったら……おかしくて」
「失礼ね! 気にしてソンした!」
「それだけ言うために、こんな時間まで待ってたの? オレを?」


目尻を下げたまま、ケンは笑いを堪えるように、口元を抑えながら聞いた。

絵理奈は頬を薄っすらとピンク色に染めて、目を逸らすように俯いた。
ケンの口に触れていた自分の手を握って口を尖らす。


「……そうよ! 悪い?」


予想していた答えではなかったケンは拍子抜けをして、笑うことも忘れてしまった。

絵理奈がチラッと横目でみると、優しい瞳で自分を見下ろすケンがいた。


「今度からオトコ見る目、養えよ」


ふわりとしたホワイティアッシュの絵理奈の髪にゴツゴツとした手を乗せ、くしゃりとする。

「じゃあな」と言って去って行くケンの後ろ姿に絵理奈はぽつりと言葉を漏らす。


「……あんたが言うな。バカ」