「――ほんとに大丈夫か?」


横に並んで歩く楓に、ケンは言った。


「うん。ケンも居てくれるし」
「そっ、そりゃ、放っておきやしねぇけど!」
「それに、前を向くと決めてからの方が、不思議と恐怖感はない」


隣にいる、紳士物のスーツを着た楓は、ケンには眩しく見えた。

それに、なんだかドキドキとする。

理由は、もうケン自身もわかってはいるけれど。


「多分、特別なにかをしなくても、顔を合わせることになると思うから」
「――シュウの親父、か……その……」


あのあと、大体のことをケンは聞いた。
ニュースなどでは耳にすることだが、まさかこんな身近で“未遂”といえども起きていただなんて驚愕だ。

それと同時に、当事者である楓になんて言っていいものかわからずにいた。


「ごめんね、ケン。巻き込んで」
「いや! それは全然! ただ……シュウが――」
「ああ。そうだった。私、楓って言うの。ケンが呼びやすい方で構わないけど、“シュウ”でいる時間は限られてると思うから……」
「……楓……」


隣で微笑むその人は、昨日までと同じように笑いかけてるはずなのに。
でもケンにとってはなぜか、昨日までの笑顔と違って見える。

それは『楓』と初めて口にしたからなのか――。

夕陽に照らされて歩く楓が、とても綺麗に見える。


「あ、ケンは“健太”って言うんだね」
「おっ、おお! そう。だから、その……楓、は、今まで通りに呼んでいいから」
「うん」


ただ、女だと知ったからそう見えてるわけじゃない。
きっと、その凛とした姿が――真っ直ぐと前を見ている目が、ケンの瞳には綺麗に映っているのだ。


「……オレも、ちゃんとしなきゃな」
「え?」
「や、こっちの話」


ケンは自身の問題を思い返して呟いた。

楓の強い姿勢に、ケンも感化されていた。