「私…は…私にとっては、都合のいいお話です。でも…どうして? あなたは特にメリットはないですよね?」


楓の言うことに堂本は黙って聞いたあと、天井を仰いだ。そして再び頭を戻したかと思えば今度は頭を垂れて、がしがしと後頭部を搔いた。


「…オープンしてまだ1年経ってない店なんだ」
「はぁ…」
「別に経営危機って訳じゃない。でも、そうなってからじゃ遅いしな」
「はぁ?」
「お前の“女”の視点から見て思ったことをなんでも言ってくれ。いいことも、もちろん悪いことも」


堂本の話すことはいつも難しい。理解するまで時間を要する。
そんな楓の思考を置いたまま、堂本がさらに言う。


「“女”が居心地いい場所(とこ)を作れば、一層客は増えるだろ?」


そんな風に話をする姿は紛れもなく経営者で―――未だ年齢不詳の堂本が、ますますわからなくなる楓だった。


「そんなとこか…。あとは―――」
「『あとは』…?」
「…いや。なんでもない」

(そういうの、一番気になるんだけど)


堂本の意味深な視線と歯切れの悪い答えを最後に、その話題は終わってしまった。


「で? やるか? やめるか?」


最終チャンスを堂本が与えてくれた。

その質問に、楓は間を開けたがしっかりとした眼差しを向ける。
そして大きくはないが、“覚悟”を決めた声で答えた。


「すぐにでも」