カーテン越しに光が射し込む部屋に、スースーと寝息が聞こえる。

ベッドに横たわって、ようやく眠りについた楓に堂本が布団を掛けた。


『もしかしたら、ここにくるかもしれない』


一連の話を、楓は寝る前に堂本に話をしていた。
楓の寝顔を見ながら、聞いた話を思い返す。


『今まで、なんとなく雰囲気がいやでした。そして、あの日――突然襲われたんです。
自分の家に、危険人物が居るってわかってても、逃げ場がなかった……。

圭輔が「実の娘になにしてるんだ」って助けてくれて……。
でも、その場から逃げ出す時に、あいつが言い捨てたんです。

「どうせ外でデキたガキだろ」って……。

私は意味がわからなかった。
でも、私の母親が浮気をしていて、その人との間に出来たのが自分ってことだと理解しました。

――本当かどうかはわかりません。

母は、既に他界してますから――』


そう話をしていた楓は、怒りや恐怖、悲しみを懸命に押し殺していたように堂本は感じていた。


「まだ19(ガキ)なのに――」


呟きながら、楓のさらりとした髪を撫でる。

どうにかしてやりたい。
一生傍にいて守ることは出来ないけれど。

それでも、こうして出逢って今を共にしている縁。
なにか、自分に出来ることは全力でしてあげたい。

そう思うのは――菫と重ねているからなのか。

堂本は楓の寝顔を見て、自問自答する。


「――違うな」


正直、10年以上経った今でも、菫の存在は大きく忘れることなど出来ない。だから逆に、菫を誰かに重ねるなんて出来る筈がない。

まだ、過去になってないのだから。


堂本は左手の時計を見た。


「7時前、か……」


時間を確認して、その場を立つ。
寝ている楓の顔を、じっと見て、それから静かに玄関を出た。

外に出ると、ドアに寄り掛かって廊下の窓から射し込む朝陽に目を細める。
そして目を軽く伏せて、胸ポケットから煙草を取り出した。


「……あんた、誰?」


その声に顔を上げる。
考え事をしていた堂本は、一人の人間が近付いていたことに気が付かなかった。