堂本が楓の元に訪れたのは、夜の9時頃だった。
「おう。入っていいか?」
「……どうぞ」
(自分の家なのに…)
その会話に違和感を感じつつも、控えめに答えた。
堂本の後を追うようにして部屋に戻る。
中央まで歩き進めた堂本が、ピタッと止まって振り向いた。
楓は距離を保った場所で、初めて堂本とまともに向き合う。
「体は?」
「はっ⁈」
「…アホ。風邪は良くなったかっつってんだ」
「あ…ああ。はい。おかげさまで…」
未だ警戒心を解いていない楓に、堂本は呆れたようにそう言った。
楓はというと、自分が過剰反応し過ぎた恥ずかしさで身を小さくして俯いた。
「とりあえず、座れ」
まるでこれから説教でも始まるかのような流れで、楓は何もないフローリングに座った。
堂本はそれを見届けてから、ベッドへと腰を降ろす。そして、ジッと楓を見つめた。
「あの…」
「お前、背、いくつ?」
「え? あ…と、175…くらいかな」
「…レンくらいか」
「?」
「いや。こっちの話だ」
堂本が黙ってしまうと、楓から話をすることは出来ないので部屋は沈黙になってしまう。
堂本が何か考えている間は落ち着かなくて仕方ない。
それから少しして、ようやく堂本が口を開いた。
「いつでもいいぞ。お前のタイミングで」
それは“ホスト”という仕事を始める時期の話だと、楓はすぐに理解した。
楓はもう決めたからにはすぐにでもいい、という気持ちではあったが、どうしても気になることを消え入りそうな声で聞いた。



