「あ、来てくれたんだ!」


自分と同じだけ、お酒を飲んだはずの絵理奈が、なにもなかったかのように手を振って駆け寄って来た。


「いや…あんたが『待ってる』っつーし……」
「…そっか。ありがと」


なんだか初デートのような、待ち合わせ。
実際“初”なわけだが、恋人同士なわけでもない。


「じゃーいこっか」
「どこに」
「んー…とりあえず、どっか」
「なんだそれ」


ケンが呆れたように答えると、絵理奈は「ふふっ」と笑ってケンの腕を引いた。


「ちょ、手、離せ。歩きづれぇ」
「あ、ごめ…つい」


『つい』という言葉にケンが絵理奈を見る。
そして、その視線に気づいた絵理奈は、苦笑して手を離した。


「…リュウは、そうするのがいいみたいで…」
「……」
「でも、ケンは違うんだね」
「なぁ」


立ち止まり、俯いたまま、絵理奈が弱弱しい声で言う。
そんな絵理奈をずっと見たまま、ケンが問い掛ける。


「あんた、リュウが本気で好きなのか?」


その質問に、絵理奈は瞬時に顔を上げた。

だけど何も答えない絵理奈に、ケンがまた口を開く。


「それとも、離れたいんじゃないのか――――?」


この言葉に絵理奈は目を見開いた。
そしてすぐに、力なく笑う。
それはケンの目には、無理に笑っているように見えた。


「笑うなよ」
「…だって。可笑しいんだもん」
「なにが可笑しいんだよ?」
「――絵理奈なんかに、そんなふうに気遣ってくれるのが」


まっすぐにケンを見る絵理奈は、今まで見たことのない絵理奈だ。

店でリュウといるときの絵理奈は、ちょっときつそうでケバい印象だった。
イマドキの遊んでる若者で、金も親からの援助で、苦労知らず。

そんなイメージしかないはずの彼女が、急にしおらしく感じる。


「…リュウ(アイツ)はあんたに、気、遣わないのかよ?」


本心は別として、リュウにとって大事な太客のはずなのだから。
ケンは、そう思って絵理奈に聞いた。