嘘つきなキミ


「うぉあっ!」


バックに入ったケンは、ちょうどアイスペールを手にして出てこようとした楓とぶつかりそうになって声を上げた。


「…びっくりした。…ケン? なんかあった?」


同じく驚いたものの、ケン程では無い楓は冷静にケンの顔を見て問う。
しかしケンにすると、その至近距離とも言える距離から見つめられ、問われたことに冷静に返すことが出来なかった。


「シ…シュウ…! っと、あー…べ、別に、何も」
「…? ヘンな奴だな…悪い。僕これ急いでるから」


首を傾げながらも楓は手にしたものをレンのテーブルに運ぶ為に先を急ぐ。

そのすれ違った時の僅かな香り。
そして後ろ姿をチラリとケンは確認すると、周りに誰もいないことを確かめてからバックヤードの中で壁に持たれて座り込む。


「…どーなってんだ、オレ…」


くしゃっと髪を掴みながら漏らす。

ケンの心臓はなぜかまだ騒ぎ立てていた。
それは先程の絵理奈に言い寄られた時に類似しているような鼓動―――…しかし、それとはまた異なるものの気がする。

「ふーっ」と、長い息を吐き、腰を上げる。
そしてバックから顔を少し出して楓のいるテーブルを探して見た。

凛としたような表情で業務に集中している楓をジッと見つめる。

スーツが似合う。
所作もどこか柔らかな感じが見えて、丁寧で…中性的な印象は見た目だけじゃないのかもしれないな、などどケンは思いながら見ていた。


「ケン。何してるんだ?」
「ぅ、わ!?」


すっかり仕事を忘れていたケンの背後から裏方の遠藤が不思議そうに声を掛けた。
ケンはまた先程と同じように飛び上がって声をあげ、誤魔化すだけだった。