クツズレ

 

「だ、大丈夫ですか?立てますか?」


そう言いながら明らかに動揺している僕を見て、気を使ってくれたのだろう。


彼女は慌てて涙を拭くと、

「だ、大丈夫です! こちらこそ驚かせてしまって、本当にすみませんでした!」

と突然大きな声を出し、僕に謝り返してきた。



初めて聞く彼女の声に、

「大丈夫なら、よかったです」

ホッと胸を撫で下ろす。



その時――



僕は座り込んだ彼女の横に、黒のエナメルのハイヒールがきちんと揃えて置いてある事に、気付いてしまった。


それは妖しい月の光に照らされて

キラキラと哀しく光っていた。






あぁ……


そうだったのか……