相変わらず高架の下では、家路を急ぐ人々を乗せた重そうな電車が、慌ただしく通り過ぎて行く。
そして僕たちがここで、何人の人を見送った後だろう?
再び辺りが静けさを取り戻した時
「これ、憧れて、やっと手に入れたハイヒールなんです」
彼女は僕に、ポツリと呟いた。
「でも、やっぱり私には無理でした。結構、頑張ったんですけどね」
見ればエナメルのハイヒールは、彼女の手の中にあった。
「ハイヒールってカッコイイですもんね?
でも、やっぱり大変そうだ」
僕は笑った。
「大変……でした。とっても痛くて。本当は立っているのもやっとで」
そう言いながら、彼女は何かを思うように、手にしたハイヒールをじっと見詰めていた。
僕にはそんな彼女が、たまらなく愛おしく思えた。


