「翼っ!!」


翼の、いつもの柑橘系の香りに包まれると、頑なだった自分の気持ちが解れていくのがわかる。

この温もりが、大好きなのに、私は一体何をしているんだろう。


「今日の玲、可愛いじゃん。」


短くなった髪に指を入れながら、翼は柔らかな眼差しを私に向けた。

翼の指に触られた部分だけ、熱を持ちはじめるから不思議だ。


翼。ごめんね。

私は翼が、大好き…。


「翼、大好き。」


翼の胸の中で、そっと呟くと、「俺も。」という甘い声が頭の上から下りてきた。

強くぎゅっと抱きしめられて、心からホッとした。



「え、そうだっけ??」


「ちゃんと言いました。

夜、自分で貸し切り取ったからそのまま朝練まで残るって。

昼前には帰るからって、話しただろう?」


そういえば、そんな話、聞いたような…。

でもそれが昨日だったなんて、すっかり頭の中から消え去ってたよ…。


「じゃあ、帰ってこなかったんじゃなくて??」


「喧嘩したから帰らないなんて、そんな真似するわけないだろ。

玲、俺の何を見てるんだよ。

俺、そんなに信用ないの?」


あ、いや、いや…。


またもや矛先が怪しい方向へ向きそうになるのを必死で食い止める。


「私、かぁーっとしちゃって。えへ。」


笑って誤魔化す私に、翼は無表情のまま、頬をむにっと抓った。


「い、いたーひ…。」